2018年09月24日

農薬の使用や作物残留に関する規制

農薬に関する規制は,大きく農薬取締法と食品衛生法に基づいて行われる。この規制について,普及指導員等,農業関係機関職員でも正確に理解していないことが少なくない。
そこで,今回はその違いについて,農薬使用について焦点を絞って簡単に振り返る。

農薬取締法に基づく規制は,農薬使用基準による使用方法に関する部分と,製造・販売に関する部分がある。農薬使用基準は,農薬取締法に基づく省令「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(農林水産省・環境省令第5号,平成15年3月7日,最終改正平成17年5月20日)第2条第1項で規定されている。簡単に述べると,「適用作物,希釈倍数,使用時期,成分の総使用回数」の4項目が,遵守義務(違反すると罰則が科せられる)と規定されている。また,製品の有効期限内で使用すること,農薬使用の記録,農薬飛散対策などが,努力義務(違反してもただちに罰則は科せられない)として規定されている。このように,農薬取締法は農薬の使用に係る部分を規制対象としている。

一方,農薬の作物残留に関する規制は,食品衛生法第11条第3項に規定されている。なお,食品添加物の作物残留については,食品衛生法第11条第1項及び第2項で規定されている。第11条第2項及び第3項には罰則があり,いずれも遵守義務となっている。食品衛生法で規制しているのは,流通している食品に含まれる農薬残留量であり,農産物にどのように農薬が使用されているかを規制してはいない。農薬使用については,先に説明した農薬取締法で規制されている。

なお,農薬等の作物残留規制でよく見聞きするポジティブリストやネガティブリストは,規制方法の違いを指すものであって特定の法律の規制方法を指すものではない。2003年の食品衛生法改正(2006年施行)の際に,食品中に残留する農薬,飼料添加物及び動物用医薬品(農薬等)について,一定の量を超えて農薬等が残留する食品の販売等を原則禁止するポジティブリストが導入された。なお,食品添加物については,それ以前からポジティブリストによる規制が行われている。この点についても誤解している自治体職員(農業関係,保健関係)がいるので,正しく理解して欲しいところ。

以上の点については,農林水産省や厚生労働省,食品安全委員会,消費者庁から国民向けの様々な資料で,次のようなイラスト等で分かりやすく説明されているのだが,そうした資料はインターネットでも多く公開されているので,理解に自信のない自治体職員はそうした資料を精読して欲しい。
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以上について簡単にまとめると,次のようになる。
農薬取締法の規制対象:行為(農薬使用)に係る規制
→農薬の使用方法,農薬の販売・使用

食品衛生法の規制対象:モノ(食品)に係る規制
→食品への残留,食品の販売の制限

そのため,農薬使用基準違反だけど残留農薬基準値を超えていない場合は,農薬取締法の規制対象となるが食品衛生法の規制対象外となる。また,その逆もあり得る。

ここで概説した内容は,本来は職員研修できちんとレクチャーすべきなのだが,全国の普及指導センターではそうした研修は行われていないのではないだろうか。


<参考リンク>
農薬取締法
農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令
食品衛生法
ポジティブリストとネガティブリスト((一社)日本MOT振興協会)
食品衛生法における農薬の残留基準について(pdfファイル1.7MB,平成27年度食品に関するリスクコミュニケーションの厚生労働省資料)
ラベル:画像
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2018年03月25日

農業普及組織と植物防疫

2018年1月16日,日本植物防疫協会主催シンポジウム「植物防疫をどう教えるか」に参加した。
何度か同シンポジウムに参加しているが,今回は技術的なテーマでなかったからか,いつもの6割弱の参加者だった。
シンポジウム講演要旨集がUPされているので詳しくはそちらを参照いただきたいが,その中で,農業普及職員・農業普及組織と植物防疫行政についての宮城県の伊藤氏の報告を基に,各都道府県にある普及指導センターと植物防疫行政の関係について取り上げる。

私は約半年前からGAPについて勉強しているが,JGAP・ASIAGAP,GLOBALG.A.P.,GH評価いずれにおいても,普及指導員は植物防疫分野を始めとする農業技術の専門知識を有するとされており,様々な部分で普及指導員等に指導を仰ぐように求めている。しかし,私の経験上,必ずしも指導を仰ぐに値する職員ばかりではないと思っている。
伊藤氏の報告によると,そもそも農業普及組織の業務に植物防疫行政は含まれないとのこと。また宮城県では,2016年度まで農業普及職員が植物防疫分野を学ぶ機会がなく,職員各自の自己研鑽に任せられていた。しかも,宮城県の農業普及組織には,植物防疫分野を指導する専門員が配置されていないとのこと。自治体によって対応は異なるようだが,少なくとも1つの自治体の実態がこのような植物防疫分野軽ともいえる対応であることは間違いないようだ。
講演要旨では触れられていないが,GAPの推進は農業普及組織の業務として農林水産省が位置付けていると講演で説明されていた。GAPでは植物防疫分野に関係する部分(病害虫防除技術,農薬の適正使用など)が多く取り上げられるが,植物防疫分野の知識をきちんと学んでいない職員・組織が,果たして指導できるのだろうか?
これも講演要旨では触れられていないが,宮城県では,農業普及職員による,違法ではないが技術的に不適切な指導が実際にあったとのこと。すべての職員が不適切な指導を行っているわけではないだろうが,職員のスキルアップに取り組んでいない組織を直ちに信頼することは難しいだろう。

伊藤氏が挙げている技術・知識習得手段は,いずれも農業普及職員でなくとも利用できる。つまり,本人に意欲があれば,農業者であっても農業普及職員以上の植物防疫分野のスキルを身に付けることが可能である。インターネットを活用すれば,信頼できる病害虫情報や農薬情報(登録情報,製品情報等)を入手できる。経験による知識の上乗せ分を考慮しても,少なくとも,勤務年数の短い農業普及職員以上のスキルを身に付けることは難しくないだろう。

こうしてみていくと,農業普及組織を税金投入してまで維持する必要性がどの程度あるのかと考えてしまう。農業普及組織の業務が植物防疫分野だけでないのは分かるが,私は植物防疫分野は農業を支える必須技術の一つだと考えている。そのため,その必須技術を適切に指導できるか疑われる組織に対して,厳しい評価を持たざるを得ない。幸いなのは,宮城県のような事例ばかりでなく,福岡県など組織的に対応している自治体もあること。シンポジウム当日会場から出された意見でも,福岡県以外でも職員のスキルアップに取り組んでいる自治体が紹介されていた。
そうした動きが,全国区になることを期待したい。
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2018年01月29日

ホーエンハイム(パラケルスス)先生の名言(その2)

ホーエンハイム(パラケルスス)先生(1493?~1541)の有名な言葉(その2)をメモ

All substances are poisons; there is none which is not a poison. The right dose differentiates a poison and a remedy.

すべての物質は毒である。毒で無いものはない。適正な用量が毒と薬を区別する。
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2017年12月30日

本の記録

食品安全
(1)畝山智香子「ほんとうの「食の安全」を考える ゼロリスクという幻想」2009
(2)畝山智香子「「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える」2011
(3)畝山智香子「「健康食品」のことがよくわかる本」2016
(4)エリザベス・M・フェラン「創られた恐怖 発ガン性の検証」1996
(5)唐木英明「牛肉安全宣言 BSE問題は終わった」2010
(6)齋藤訓之「有機野菜はウソをつく」2015
(7)佐々木 敏「佐々木敏の栄養データはこう読む! 疫学研究から読み解くぶれない食べ方」2015
(8)ジェームス・P・コールマン「天然モノは安全なのか? 有機野菜やハーブもあぶない」2003
(9)食品安全委員会「食品安全 キッズボックス総集編」2014
(10)食品安全委員会「いわゆる「健康食品」について」2015
(11)食品安全委員会「食品の安全性に関する用語集(第5版)」2015
(12)食品安全委員会「食べものについて知っておきたいこと 食品安全e-マガジン[読み物編]総集編」2016
(13)食品安全検定協会「食品安全検定テキスト 初級 ―食の「安全」と「安心」をめざして―」2015
(14)食品安全検定協会「食品安全検定テキスト 中級 ―食の「安全」と「安心」をめざして―」2014
(15)食品の安全を守る賢人会議「食品を科学する 意外と知らない食品の安全」2015
(16)関澤 純「これ,食べたらからだにいいの? 食と健康-「安全」と「安心」のギャップをうめる」2010
(17)宋 美玄ら「各分野の専門家が伝える 子どもを守るために知っておきたいこと」2016
(18)高橋久仁子「「食べもの情報」ウソ・ホント」1998
(19)高橋久仁子「食と健康Q&A チョットおかしな情報の見分け方・接し方」2002
(20)高橋久仁子「「食べもの神話」の落とし穴 巷にはびこるフードファディズム」2003
(21)高橋久仁子「フードファディズム メディアに惑わされない食生活」2007
(22)高橋久仁子「「健康食品」ウソ・ホント 「効能・効果」の科学的根拠を検証する」2016
(23)辻村 卓ら「野菜のビタミンとミネラル 産地・栽培法・成分からみた野菜の今とこれから」2003
(24)T・ジョスリングら「食の安全を守る規制と貿易 これからのグローバル・フード・システム」2005
(25)中西準子「食のリスク学 氾濫する「安全・安心」をよみとく視点」2010
(26)長村洋一「長村教授の正しい添加物講義」2015
(27)成田崇信「乳幼児から高校生まで! 管理栄養士パパの親子の食育BOOK」2015
(28)パム・ロナルドら「有機農業と遺伝子組換え食品 明日の食卓」2011
(29)FAO「FAO食品・栄養シリーズ第87号 食品安全リスク分析 食品安全担当者のためのガイド」2008
(30)船山信次「毒があるのになぜ食べられるのか」2015
(31)船山信次「毒!生と死を惑乱 「薬毒同源」の人類史」2016
(32)細貝祐太郎ら「食品衛生の歴史と科学 人はいかにして毒を知り食の汚染を防げるようになったか」2013
(33)松永和紀「「食品報道」のウソを見破る 食卓の安全学」2005
(34)松永和紀「踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓」2006
(35)松永和紀「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」2007
(36)松永和紀「シリーズ地球と人間の環境を考える11 食品の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない」2010
(37)松永和紀「お母さんのための「食の安全」教室」2012
(38)松永和和紀「効かない健康食品 危ない自然・天然」2017
(39)村上道夫ら「基準値のからくり 安全はこうして数字になった」2014
(40)山下一仁「食の安全と貿易 WTO・SPS協定の法と経済分析」2008
(41)レスター・ブラウン「フード・セキュリティー だれが世界を養うのか」2005

リスクコミュニケーション
(42)五十嵐泰正ら「みんなで決めた「安心」のかたち ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年」2012
(43)木下冨雄「リスク・コミュニケーションの思想と技術 共考と信頼の技法」2016
(44)ゲルト・キ-ゲレンツァー「数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活 病院や裁判で統計にだまされないために」2003
(45)J.V.ロドリックス「危険は予測できるか! ―化学物質の毒性とヒューマンリスク―」1994
(46)ジョン・F・ロス「リスクセンス-身の回りの危険にどう対処するか」2001
(47)ダン・ガードナー「リスクにあなたは騙される 「恐怖」を操る論理」2009
(48)中谷内一也「安全。でも、安心できない…―信頼をめぐる心理学」2008
(49)中谷内一也「信頼学の教室」2015
(50)西澤真理子「リスクコミュニケーション」2013
(51)西澤真理子「「やばいこと」を伝える技術 修羅場を乗り越え相手を動かすリスクコミュニケーション」2017
(52)バルーク・フィッシュホフら「リスク 不確実性の中での意思決定」2015
(53)久松達央「キレイゴトぬきの農業論」2013

行動経済学
(54)佐藤雅彦ら「行動経済学まんが ヘンテコノミクス」2017
(55)ダン・アリエリー「アリエリー教授の「行動経済学」入門」2017
(56)日本経済新聞社(編)「やさしい行動経済学」2017

放射能
(57)安斎育郎「[増補改訂版]家族で語る食卓の放射能汚染」2011
(58)菊池 誠ら「いちから聞きたい放射線のほんとう いま知っておきたい22の話」2014
(59)北村美遵「地球はほんとに危ないか? 真説・環境問題入門」1992
(60)田崎晴明「やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識」2012
(61)中西準子「リスクと向きあう 福島原発事故以後」2012
(62)中西準子「原発事故と放射線のリスク学」2014

環境全般
(63)宇井 純「公害原論 Ⅰ」1971
(64)宇井 純「公害原論 Ⅱ」1971
(65)宇井 純「公害原論 Ⅲ」1971
(66)宇井 純「公害原論補巻Ⅰ 公害と行政」1974
(67)宇井 純「公害原論補巻Ⅱ 公害住民運動」1974
(68)宇井 純「公害原論補巻Ⅲ 公害自主講座運動」1974
(69)宇井 純「キミよ歩いて考えろ」1979
(70)宇井 純「公害自主講座15年」1991
(71)宇井 純「宇井純セレクション1 原点としての水俣病」2014
(72)宇井 純「宇井純セレクション2 公害に第三者はない」2014
(73)宇井 純「宇井純セレクション1 加害者からの出発」2014
(74)菊池 誠ら「もうダマされないための「科学」講義」2011
(75)小島正美「誤解だらけの「危ない話」 食品添加物,遺伝子組み換え,BSEから電磁波まで」2008
(76)左巻健男「ニセ科学を見抜くセンス」2015
(77)中西準子「都市の再生と下水道」1979
(78)中西準子「水の環境戦略」1994
(79)中西準子「環境リスク論 技術論からみた政策提言」1995
(80)中西準子「環境リスク学 不安の海の羅針盤」2004
(81)NATROM「「ニセ医学」に騙されないために 危険な反医療論や治療法,健康法から身を守る!」2014
(82)林 俊郎「ダイオキシン物語 残された負の遺産」2017
(83)ビョルン・ロンボルグ「環境危機をあおってはいけない 地球環境のホントの実態」2003
(84)水俣病公式確認五十年誌編集委員会「水俣病の50年 今それぞれに思うこと」2006
(85)レイチェル・カーソン「沈黙の春」2001

病害虫関係
(86)有江 力(監修)「図解でよくわかる 病害虫のきほん」2016
(87)飯田 格「植物病理学」1978
(88)大串龍一「[農薬基礎ゼミナー]病害虫・雑草防除の基礎」2000
(89)鈴木知之「虫の卵ハンドブック」2012
(90)難波成任(監修)「植物医科学 上」2008
(91)細矢 剛ら「野外で探す微生物の不思議 カビ図鑑」2010
(92)堀江博道ら「カラー図説 植物病原菌類の見分け方Ⅰ,Ⅱ」2014
(93)堀江博道ら「植物医科学実験マニュアル―植物障害の基礎知識と臨床実践を学ぶ―」2016
(94)松井正春ら「改訂植物防疫」2007年
(95)三田村敏正「繭ハンドブック」2013
(96)安田 守ら「イモムシハンドブック」2010
(97)安田 守ら「イモムシハンドブック2」2012
(98)安田 守ら「イモムシハンドブック3」2014
(99)米山伸吾ら「仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び」2006

農薬関係
(100)岩崎力夫「新版ピシャと効かせる農薬選び便利帳」1995
(101)梅津憲治「農薬と食の安全・信頼~Q&Aから農薬と食の安全性を科学的に考える~」2014
(102)鈴木啓介「安全食品 農薬を知ろう!」2004
(103)寺岡 徹(監修)「図解でよくわかる 農薬のきほん」2014
(104)日本植物防疫協会「農薬取締法令・関連通達集」2007
(105)日本植物防疫協会「農薬作用機構分類一覧」2013
(106)日本植物防疫協会「農薬概説 2017」2017
(107)平野千里「原点からの農薬論 生き物たちの視点から」1998
(108)福田秀夫「農薬に対する誤解と偏見」2000
(109)福田秀夫「続 農薬に対する誤解と偏見」2004
(110)宮本純之「反論! 化学物質は本当に怖いものか」2003

果樹関係
(111)梅本清作「ナシ黒星病 おもしろ生態とかしこい防ぎ方」2013
(112)田代暢哉「だれでもできる果樹の病害虫防除 ラクして減農薬」2007
(113)堤 隆文「果樹カメムシ おもしろ生態とかしこい防ぎ方」2003

その他
(114)神門善久「日本の食と農 危機の本質」2006

【番外(反面教師)】
(115)安部 司「食品の裏側 みんな大好きな食品添加物」2005
(116)河北新報社編集局「無登録農薬はなぜつかわれた 豊かさの死角」2004


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