2014年01月03日

マスメディアの取り上げ方<br> (アクリフーズ冷凍食品からマラチオン検出(その3))

(株)アクリフーズ冷凍食品からマラチオンが検出された件について,Yahoo!ニュースでこの件の報道一覧を古い順から見ていくと,毎日新聞2013年12月29日(日)20時48分配信「<マルハニチロ>冷凍食品から農薬 90品630万袋回収」の記事で,最高だったコーンクリームコロッケで残留農薬の基準0.01ppmの150万倍(1万5000ppm)の高濃度と記載されており,マスメディア各社ではこの報道配信までには,今回のマラチオン検出濃度は,一般的な残留農薬のレベルを大幅に上回っていることが明らかになったはずだ。2008年1月の中国製冷凍食品における殺虫剤混入事件と,同様のレベルと見做してよいだろう。
このような高濃度の場合,まず取り上げるべきはARfDであってADIではない。
両用語の解説は(その1)記載の食品安全委員会の解説を参照していただきたいが,簡単に言ってしまうと,ARfDは急性毒性に関する指標,ADIは長期毒性に関する指標である。
異臭する程のマラチオンが冷凍食品に含まれていたと思われるので,まず注意喚起すべきは急性毒性についてである。長期毒性については,急性毒性の次に触れるべき問題だろう。
しかし,マスメディアの報道は,「残留農薬基準値の○○倍」といった的外れな表現が目立った。
(その2)でも触れたように,マルハニチロホールディングス又はアクリフーズの食品安全関連スタッフ(おそらく品質管理部門)は毒性評価を誤っていたが,マスメディアも似たような過ちを犯したといってよいだろう。先に引用した毎日新聞のネット配信記事にもある残留農薬の基準0.01ppmの150万倍(1万5000ppm)という表現は,マラチオンの急性毒性を何ら伝えていない。
こうした報道の基となったのは,マルハニチロホールディングス・アクリフーズの2013年12月29日第1報プレスリリース(pdfファイル321KB)に書かれている,次の文章によるものだろう。
残留農薬検査の結果から、「マラチオン(2,200ppm)」が検出された。
残留農薬ポジティブリスト制度の一律基準(0.01ppm)を上回る数値である事が確認された。

マルハニチロやアクリフーズのプレスリリースを信じるなとは言わないが,先に挙げたLD50とARfDの解釈の間違いも含め,マスメディア各社は,企業のプレスリリースの内容をチェックする能力がないことを,自らあからさまにしたようなものだ。

(公財)日本食品化学研究振興財団サイトでマラチオンの残留農薬基準値を見ると,0.01ppm(トマトジュース)から8ppm(小麦ほか38食品)と幅があるのが分かる。
残留農薬基準値は,ADIを基にフードファクター等を考慮して食品毎に設定されており,知見があまりない食品について,暫定的に一律基準0.01ppmが設定される仕組みになっている。
マラチオンの場合,一律基準0.01ppmが設定されているのはトマトジュースであり,この基準値が最も厳しい値であることから,おそらくマルハニチロ・アクリフーズがプレスリリースで取り上げたものと思われる。

マラチオンがどのようにして何に付着していのか不明な段階で,食品毎に設定されている残留基準値を取り上げ,その食品の安全性を示そうとすることが如何にナンセンスなことか。
こうしたマスメディアの的外れ・ナンセンスな報道は,以前から各所で指摘されてきた。
このような重大な問題を報道するに当たっても,未だマスメディアには学習能力がないようだ。ほんの数分間,ネットで情報を検索すれば分かることさえ,マスメディアは情報収集できないらしい。

これだから,「マスゴミ」と揶揄されるのだ。
posted by itoh at 17:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 環境,食品,農業 | 更新情報をチェックする

食品分野スタッフの食品安全に関する知識<br>(アクリフーズ冷凍食品からマラチオン検出(その2))

食品安全情報blog2013年12月31日でuneyama氏は,次のように述べられている。
それよりも「食品の安全に関わる部署で知識が無かった」というのは本当にそうなのですか?この手の意図的混入(?)事件は知識があっても完全に防ぐのは難しいものですが、食品の安全に関する部署でその認識というのはそれよりもっと重大な問題なのですが・・・。ちょっと信じられないので記録に残しておきます。

これは,マルハニチロホールディングス又はアクリフーズの食品安全関連スタッフが,LD50とARfDの違いを理解しておらず,当初LD50値を基に当該冷凍食品の安全性を評価していたことに関連してのコメントである。

約15年前に2年間のみだが,私は某食品メーカーの工場で品質管理に携わったことがある。
私の経験が現在でも通用するのであれば,食品メーカーの品質管理部門スタッフの一般的な認識は,残念ながらuneyama氏が危惧する程度なのが実態であろう。
その当時の私は,ADIやARfDの認識はなかった。残留農薬基準値(当時はネガティブリスト制)があることは知っていた。定期的にサンプルを外部委託して基準値超えしていないかチェックしていたが,食品安全分野へ個人的に関心を持つことはなかった。製造中の異物混入などには注意は払っていたが,「食品の安全性とは何か」といった認識を改めて意識したことはなく,そうした知識習得の必要性を感じることもなかった。
当時,会社としてHACCPやISO9000シリーズ取得へ向けた取り組みを行っていたので,もう少しその企業に在籍していれば,少しは違っていたかもしれない。ただ,個人的にきちんと意識をもって,食品安全分野に関心を持っていたかどうかは疑わしい。

こうしたスタッフ教育の問題は,民間企業に限らない。
以前から本blogでも述べているが,行政組織における農業技術職員においても,業務に関連があり基本的知識は習得しておくべきなのに,食品安全分野についての知識習得が疎かになっている。
posted by itoh at 13:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 環境,食品,農業 | 更新情報をチェックする

アクリフーズ冷凍食品からマラチオン検出(その1)

2013年12月29日,(株)アクリフーズ製造の冷凍食品から殺虫剤成分マラチオン(商品名:マラソン)が検出されたとの報道があった。
2013年12月31日現在,次のとおりマラチオンが検出されている。
(参照:2013年12月31日マルハニチロホールディングス・アクリフーズプレスリリース「「株式会社アクリフーズ群馬工場生産品における農薬検出について」第二報 」(pdfファイル196KB))

(商品名,発生地域,マラチオン濃度の順に記載)
 ミックスピザ3枚入り,静岡県,2,200ppm
 ミックスピザ3枚入り,福岡県,14ppm
 ミックスピザ3枚入り,神奈川県,1,000ppm
 チーズがのびーるグラタンコロ!,愛知県,12,734ppm
 チーズがのび~るチキンナゲット,大阪府,4,200ppm
 COOP照り焼きソースの鶏マヨ!,愛知県,1,700ppm
 照り焼きソースの鶏マヨ!,福岡県,5,600ppm
 スーパースイートコーンフライ,愛知県,2ppm
 とろーりコーンクリームコロッケ,東京都,15,000ppm

現在(株)アクリフーズでは,製品の自主回収を実施中。詳細は次のリンク先を参照のこと。
2014.01.02 「お詫びとお知らせ」(追記)
2013.12.31 アクリフーズ回収商品一覧(PDF)(pdfファイル321KB)
2014.01.02 アクリフーズ 回収商品一覧(追記) 【市販用商品・パッケージ画像付き】(pdfファイル)

マラチオンの毒性については,2013年12月30日に食品安全委員会のウェブサイト(pdfファイル203KB)で,本件を受けた形で次のように解説されている。
マラチオンの概要について

○ 有機リン系の殺虫剤で、穀類、野菜、果実等に使用され、国内では農薬取締法に基づき使用が認められている(別名マラソン)。米、野菜等の作物毎に残留基準が設定されている。
食品安全委員会で食品健康影響評価を実施中。

○ 海外での評価状況、一日摂取許容量(ADI)、急性参照用量(ARfD)等:
JMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)
 ADI(1日摂取許容量※1):0.3mg/kg 体重/日(1997 年)
 ARfD(急性参照用量※2):2mg/kg 体重/日(2003 年)

※1 ADI(1 日摂取許容量):一生涯食べ続けても健康に悪影響が生じないと推定される量。動物試験の 結果をもとに、動物とヒトとの差や、個人差(子供や妊婦などへの影響を含めて)を考慮して設定されている。
※2 ARfD(急性参照用量):24 時間またはそれより短時間に経口摂取しても、健康に悪影響が生じないと推定される量。動物とヒトとの差や、個人差(子供や妊婦などへの影響を含めて)を考慮して設定されている。

○ 中毒症状:
有機リン系農薬による中毒症状としては、コリンエステラーゼ活性阻害により、以下のような症状を呈します。
【軽 症】吐き気・嘔吐、唾液分泌過多、発汗過多、下痢、腹痛、軽い縮瞳
【中等症】軽症+縮瞳、筋線維性攣縮、言語障害、視力減退、徐脈
【重 症】縮瞳、意識混濁、対光反射消失、肺水腫、血圧上昇
(出典:「毒性学」 朝倉書店)

厚生労働省のウェブサイト(pdfファイル87.6KB)でも同日情報を出しており,食品安全委員会と同様の情報に加えて,次のように解説されている。
○今回マラチオンが検出された食品について
(1)アクリフーズが記者会見で発表したように、マラチオンを15,000ppm(=15mg/g食品)含有する食品の場合、体重60kgの人が、当該食品を8gを超えて摂取するとARfDを超過します。
2mg/kg体重 × 60kg =120mg(ARfDに相当するマラチオン摂取量)
120mg ÷ 15mg/g食品 = 8g(コロッケ1個(22g)の場合、約1/3個)

(2)また、同様に、マラチオンを2,200ppm含有する食品の場合、体重60kgの人が、当該食品を約55gを超えて摂取するとARfDを超過します。(ピザ1枚(93g)の場合、約1/2枚)

ARfD(急性参照用量)は24時間またはそれより短時間に摂取される農薬の限度量として国際的に用いられていますが、安全側に立って設定されており、これを超えたとしても必ずしも健康に影響が生じるわけではありません。

○回収対象の食品を購入した場合の対処について
(1)家庭内等で回収対象の食品を見つけた場合には、食べずに返品して下さい。
(2)誤って回収対象の食品を摂取し、吐き気、腹痛などを生じた場合には、速やかに医療機関に受診して下さい。

また,食品安全情報blogでも,この件について解説されている。例として,人に投与したデータ(15mg/kg経口投与して影響がなかった)を基に,「ミックスピザ3枚入り,静岡県,2,200ppm」であれば,該当食品340gに相当すると試算されている。
12月31日追記では,「とろーりコーンクリームコロッケ,東京都,15,000ppm」を基に,次のように解説されている。
これだと結構厳しくて、体重20kgにすると約20gで15mg/kgになってしまいます。
問題の商品は8個入り176gとのことなので、1つ食べるとそのくらいですね

ほかに,佐賀大学環境分析化学研究室(上野研)でも,詳しく解説している。

今回の件の発端となった2013年11月の消費者からアクリフーズへのクレームから2013年12月31日までの経過について,次のマルハニチロホールディングス・アクリフーズからのプレスリリースでまとめられている。
2013.12.29 アクリフーズ群馬工場生産品における農薬検出について -第一報- (PDF)(pdfファイル321KB,2013.11.13~12.28まで)
2013.12.31 アクリフーズ群馬工場生産品における農薬検出について -第三報- (PDF)(pdfファイル133KB,2013.12.29~12.31まで)
posted by itoh at 13:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 環境,食品,農業 | 更新情報をチェックする