2015年08月17日

読書感想文:「食品を科学する 意外と知らない食品の安全」

『食品を科学する 意外と知らない食品の安全』を読んだ。
「食品の安全を守る賢人会議」が編著となっているが、要は内閣府食品安全委員会の委員6人が、各章を担当して執筆したもの。洒落もあるのだろうが、“賢人会議”というネーミングはどうかと思う。少なくとも私は、上から目線に感じる。
本書編纂の目的が、「はじめに」(姫田 尚、食品安全委員会事務局長)に次のように述べられている。
科学的な事実を、できる限り分かりやすくお話し、私たちが食品安全について正しい知識が得られるように中立公正で科学的な信頼できる冊子を制作しました。

この目的のとおり、全体を通して、専門家が一般人に分かりやすく解説されており、入門書としてはバランス取れていて悪くはない。ただ、各章とも、もう少しポイントを絞って解説した方が良かった気がする。私としては、全体的に説明不足の印象が残った。

第1章と第2章は、内容は別として、書き振りが上から目線な感じがした。謙れというつもりはないが、もう少し書き様があったのではないか。また、第2章の農薬の安全性評価では、アクリフーズ事件以降、ARfD・短期暴露といったキーワードが比較的身近になっているし、昨年度末以降、農薬登録に関連して農業生産現場でも話題となっているのだから、ADIの解説のみではなくARfD・短期暴露についても解説すべきだった。

第3章の脂質の話は難しかった。これは、昔から化学が苦手な私の勉強不足によるものなので、素直に反省したい。章冒頭で植物油の食用化が比較的近年であることは案外知られていないので、良い解説だったと思う。トランス脂肪酸摂取については、日本でも一部の集団は注意が必要なこと、なぜその集団に注意が必要なのかという点については、もっと具体的に解説すべきだったと思う。確か、若い女性群等、洋菓子や菓子パン等の摂取が日常的に高い集団は、トランス脂肪酸摂取量が総エネルギー摂取量の1%以上となるリスクが高かったと記憶している。

第4章は、分かり易く説明しようとする意図は分かるのだが、もう少し詳しい解説が欲しいところ。例えば、なぜ最近はおにぎり由来の食中毒が減ったのか、その理由がない。恐らく、手洗いの励行や手袋の利用など、工程管理の改善によるものだと思う。

第5章では、メチル水銀の人体毒性に関連して水俣病を取り上げた際、なぜ原因企業のチッソの名前を出さなかったのだろうか。メチル水銀の毒性そのものを知るのにチッソの名前は必須ではないが、水俣病を知る上では必須である。116−120ページにかけて水俣病について丁寧に解説しているのだから、私はチッソの社名を出すべきだったと思う。なお、同章最後のコラムで、魚類はメチル水銀を排出出来ないことを初めて知った。ほ乳類は、排出するメカニズムを持ってるとのこと。「生物濃縮」と一言で表現しても、物質によってその代謝は異なる可能性があるので、一つ一つ丁寧に理解する必要があると感じた。

最後の第6章は、台所から見たリスクマネジメントということで、本書の中で一番親しみやすく読み進められた。一つ残念だったのは、写真がモノクロのため、食品の加熱状況の違いがよく分からなかったこと。予算的なことがあるのは分かるが、写真を見て違いが分かるよう、もっと工夫してほしかった。あれでは、写真を載せた意味があまりない。
posted by itoh at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 環境,食品,農業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする