2017年06月30日

研究者は,すべての事物を知ってるわけではない

「日本人は大災害をどう乗り越えたのか 遺跡に刻まれた復興の歴史」を読み終えた。本書は,えどはくカルチャーとして2016年6月から7月にかけて計7回開催された講演記録をまとめたもの。全体的には興味深い内容だったが,少し気になる点もあった。

特に,北原糸子氏の講演記録である6章「江戸時代の大災害と時代の転換」における天地返しの解説には,大いに疑問を持った。
富士山寛永噴火後のハタケの復旧において,天地返しの痕跡が確認された横野山王原遺跡の解説で北原氏は,
また「天地返し」という方法で穴を掘って砂を埋めて,その上にまた耕作に可能な土を置いて,畑をつくり直すということをやっています。現代でも東日本大震災で原発被害にあった学校のグラウンドなどで,放射能汚染土をこうした天地返しによって土砂を埋め込んだと聞いています。土壌改善の伝統的な方法だったのだろうと思います。
(179ページ)

と述べている。しかし,耕作地の土壌改善を目的とした天地返しと放射性物質による汚染土壌の除染対策としての天地返しは,その目的は大きく異なる。目的が異なるため,天地返しの方法は同じではない。そうした基本的な点を置いてこのような比較をするのは,問題だと思う。
放射性物質による汚染土壌の除染対策としての天地返しは,その目的から,放射性物質による汚染土壌をしっかり土壌中に埋設し,放射線量を下げることが目的。放射性物質による汚染土壌の剥ぎ取りも除染対策の一つとして実施されたと記憶しているが,剥ぎ取り後の汚染土壌の処理の問題があるため,天地返しという手段も用いられたはず。そうした背景をきちんと理解してれば,こうした安易な比較はできないだろう。
耕作地の土壌改善を目的とした天地返しの場合,耕作可能な土壌条件になればよいわけで,必ずしも表土と下層土壌を入れ替える必要はない。作物栽培が可能となるなら,降下した火山灰と土壌を混和させてもよい。
なお,北原氏はその上にまた工作に可能な土を置いてと述べているが,これがほかから土壌を持ち込むことを指すのであれば,天地返しではなく客土である。

また,次のような理解に苦しむ文章表現もあった。
川普請で問題なのは,川から水を引く樋が壊れてしまい,水を安定的に供給するためには,石垣なり,堤の築地をつくらなければならず,そのために乱流する川の流れを制御する牛枠など,水勢抑制装置をつくっていきます。
(188ページ)

私の理解不足の問題なのかもしれないが,この文章では,何が川普請で問題なのか,さっぱり分からない。
講演内容を基にしているとはいえ,本人校正を踏まえて出版されているだろうから,出版前にもう少し内容を再考し,きちんと修正すべきではないだろうか。
posted by itoh at 19:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 環境,食品,農業 | 更新情報をチェックする