2009年09月07日

食の安全と有機農産物

FoodScience2009年8月26日掲載うねやま研究室「英国におけるオーガニック・パニック」で,2009年7月にFSA(英国食品基準庁)から発表されたリポートを基に,イギリスで最近話題となっているオーガニックフードに対する評価について,取り上げられていた。
このリポートについては,本blogでも若干触れたが,我楽者氏のblog「まぁ、こんなもんでえぇんとちゃう?」で,この件に関して複数のエントリーに亘って詳しく紹介されている。
日本においても,若干ではあるが,有機農産物と慣行栽培の農産物との比較で,栄養価に大きな違いがなかったとするリポートが出ており,以前本blogでも紹介した。
今回のFSAのリポートは栄養価の比較のみだが,環境負荷や農産物の安全性についても,必ずしも有機農産物が優れているとは限らないといった内容のリポートがあり,これも本blogで紹介した。
そもそも栄養価比較は難しく,同一作物でも,品種・作型・土地条件・気象条件・(有機,無機に関係なく)肥培管理によって,変動する。

有機認証制度については,この記事での次の畝山氏の指摘が,全てを表現している。
オーガニック認証システムは各国で運用されていますが、高付加価値農産物として経済的メリットを得ることが主な目的です。贅沢品やブランド品を高値で買うという選択肢は自由主義経済ではあってしかるべきでしょう。有機認証は意味合いとしてはイスラム教徒のためのハラールhalal、ユダヤ教徒のためのコーシャーkosher、菜食主義者のための「ベジタリアンに適した」という表示と同じような分類になります。安全性についてはすべての食品について一定のレベルが保たれた上での、信仰や主義に基づく選択の自由を保証する制度というわけです。

この点を行政はきちんと理解し,今回のFSAのような情報発信をすべきである。その重要性は,畝山氏がこの記事で次のように表現されている。
大切なメッセージは、消費者の選択は正しい情報が与えられた場合にのみ可能になるということです。間違った情報をもとに選択しているとしたら、それは消費者にとっては不幸なことですから、FSAは正しい情報を提供しようとしたのです。

このような視点は,日本の行政では国・地方とも,皆無と言って良いだろう。食品安全委員会からの情報発信が,幾らかある程度だろうか。

食に関して市民がまず考えなければならないことは,次の畝山氏が指摘する点である。
本当に大切なのは農法や産地や加工方法などにかかわりなく、いろいろな野菜や果物を十分にバランス良く摂るということなのです。

近年の日本は安全な食品が豊富にあるため,この基本を忘れてしまっている。そのため,本来であれば単なる個人の嗜好であるはずの有機農産物等が食の安全とリンクしてしまい,挙句の果てに,行政や政治がそうした誤った理解を受け入れた大衆迎合主義に陥り,食の安全の基本がますます見えなくなってしまった。
しかし,現在のこの状況がいつまでも続く保証はなく,既に指摘されているように,国際食品マーケットにおけるJapan moneyの地位下落(他国に買い負ける)や,農業従事者の高齢化・減少によって米さえも国内供給できなくなる時代が近く到来するといった点,こうした点が日本における重要な食の安全の問題であり,これらをもっと真剣に考えなければならない。

この点では,最近発足した内閣府消費者庁の役割は重要で,FoodScience2009年9月2日掲載多幸之介が斬る食の問題「消費者庁よ「消費者を裸の王様」にしないで」で,長村氏が次のように指摘している。
消費者の一方的な思い込みをさらに助長するような業者レベルでの妙な解決策と同じようなことが9月1日に発足した消費者庁絡みとなって国民をとんでもない方向に導かれなければ良いがと若干の危惧を有している。

消費者庁の設立によって,現在の政治・行政における大衆迎合主義が助長されることはあってはならない。むしろ,長村氏も指摘しているように,消費者庁が国民のリテラシー向上のための教育プログラムを実施する必要があろう。

いずれにせよ,行政は,畝山氏の記事で取り上げられていた,NZFSA(ニュージーランド食品基準庁)長官の次の指摘を真摯に受け入れ,きちんとした施策を実施しなければならない。
・オーガニック製品が普通の製品より安全性の上でも栄養価や健康効果についても優れているという科学的根拠はない
・オーガニック製品に対する消費者の認識と科学的根拠の間には大きな隔たりがある
・規制機関はオーガニックを支持も否定もしない、消費者が正確な情報に基づいて選択できるための努力を行っている
・健康にとって大切なことは生産方法にかかわらず、野菜や果物をたくさん食べるバランスのとれた食生活を送ることである
posted by itoh at 18:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 環境,食品,農業 | 更新情報をチェックする
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