2009年10月20日

消費者委員会の力量

今回のエコナ問題について,まとまりなく私見を述べるが,私の言わんとしている点は,次のサイトでうまくまとめられているので,是非そちらを参照していただきたい。

FoodScience「【特報】目指せ!リスコミ道●7日の消費者委員会、トクホ取り消しで意見一致
食の安全情報blog「消費者庁と消費者委員会は花王に救われた。
松永和紀blog「花王に救われた消費者庁と消費者委員会
FoodScience「【緊急提言】多幸之介が斬る食の問題●リスク管理意識の欠けた消費者庁は新開発食品研究をダメにする


今回のエコナ問題は,大きく次の3つの問題があり,それらを分けて考える必要がある。
 エコナの食品としての安全性
 エコナの特保としての評価
 消費者庁と消費者委員会の力量

私はエコナを使用していないし,今後エコナの食品としての発がん性が確認されたとしても,直ちに健康被害を懸念するようなものではないと考える。
今回のエントリーでは,消費者庁と消費者委員会の力量,特に第2回消費者委員会の検討結果について見ていく。

まず私は,変異原性や遺伝毒性といった用語の意味を理解していないので,これを機会にネットで調べてみた。
たまたま見つけたblogの「「変異原性」と「遺伝毒性」の違い」というエントリーでは,次のように解説されている。
現在では、3つの使われ方がなされています。

1) 「突然変異」と「遺伝毒性」を特に使い分けず、同義とし、どちらかに統一する*2

シンプルで楽な立場ですね。「医薬品の遺伝毒性試験に関するガイドライン」*3やFDA RedBook*4、あるいはEICの用語解説*5はこれです。

2) 変異原性を「突然変異をひきおこす性質(遺伝子突然変異、染色体異常などを含む)」、遺伝毒性を「遺伝形質を担う物質に影響する性質」とする。

この定義に従うと、DNA損傷やDNA付加体の生成、姉妹染色分体交換は、「遺伝毒性」ですが、「変異原性」ではありません。UK COM遺伝毒性ガイダンス*6や、WHO/IPCS、国連GHS*7などはこの立場で、ちゃんと文書中で定義や説明をしてくれてるので親切です。

3) 変異原性を、遺伝子突然変異を誘発する場合に限定して用いる。この場合は、染色体の増減や染色体の欠失は変異原性に含まれない(遺伝子が突然変異してるわけじゃないから)ため、2よりもさらに限定して変異原性という用語を使用する立場になります。

同blogでは,「遺伝毒性」というエントリーもある。

原子力安全委員会の過去のパブリックコメント資料用語解説で,遺伝毒性を次のように解説していた。
遺伝毒性
直接または間接的に遺伝子またはDNAに変化を与え、細胞または個体に遺伝的影響をもたらす性質。遺伝毒性は広義の意味で用いられる。変異原性や遺伝(子)毒性などの用語が用いられる場合もある。おもな指標としては、DNA傷害、遺伝子突然変異、および染色体の構造並びに数的異常があり、これらを誘発する性質と定義付けることもできる。
これらの異常が生殖細胞に起これば子孫に伝わるような傷害をもたらすであろうし、体細胞に起これば発がんに結びつく可能性がある。


遺伝毒性発がん物質については,農林水産省の「「がん」と「遺伝毒性発がん物質」」という解説ページを見つけた。
この中で「遺伝毒性発がん物質」を,次のように解説している。
正常な細胞に起こる遺伝子の突然変異には、タバコや食品に含まれている化学物質、紫外線などの様々な外的要因が関係しています。遺伝子は細胞中のDNAに暗号として記録されています。このDNAが、外的要因によって傷付つけられると暗号が変化し、遺伝子の突然変異が起こります。このように、細胞のDNAに直接作用して傷付ける可能性があり、遺伝子の突然変異をもたらし、それが原因となって発がんを起こす物質を「遺伝毒性発がん物質」といいます。

また,非遺伝毒性発がん物質について,次のように説明されている。
イニシエーションが起きた異常細胞の増殖が、何らかの理由で促進されることがあります。この異常細胞の増殖が促進される過程は「プロモーション」と呼ばれています。ある種の化学物質は、遺伝毒性発がん物質のように細胞の遺伝子突然変異を引き起こさないものの、異常細胞の増殖を促進することが知られています。例えば、食塩は胃がん、脂肪は大腸がん、アルコールは食道がんの進行を促進すると考えられています。プロモーション作用を持つ物質を摂取することによって、より“がん”になりやすくなると言われています。

なお,発がん物質についての一般向けの解説として,食品安全委員会の広報誌「食品安全第13号」の「食品中に存在する発がん物質について」を見つけた。

上記に示したweb上での解説を読んだ上で,第2回消費者委員会での議事録を見てみると,遺伝毒性について佐野真理子委員(主婦連合事務局長)が発言した,
遺伝毒性で発がん性が疑われているので、遺伝ということばがある以上、子供孫にかかわる。ただの発がん性ではない

という点は,かなり変な表現であることが分かる。
遺伝毒性は,原子力安全委員会の用語解説にあるように,「これらの異常が生殖細胞に起これば子孫に伝わるような傷害をもたらすあろう」と思われるので,佐野真理子委員(主婦連合事務局長)の言うように,「子供孫にかかわる」可能性は排除できないのだろう。
では,佐野真理子委員の言う「ただの発がん性」とは,一体どんなものなのだろうか。農林水産省の解説によれば,遺伝毒性によるがんもノーマルな(「ただの」)発がん性のように思われるのだが,如何だろうか。それとも,発がんは遺伝毒性によるものだけではないので,佐野真理子委員の言う「ただの発がん性」とは,非遺伝毒性物質のことを指しているのだろうか。ただし,遺伝毒性があるからといって,必ずしも「子供孫にかかわる」わけではないし,遺伝毒性がなくとも「子供孫にかかわる」物質もある。
先のエントリーに追記としてUPしたように,グリシドールと同じ発がん性リスクのグループに含まれる物質に,アクリルアミドや亜硝酸塩,紫外線等が含まれる。きっと佐野真理子委員は,フライドポテトなどの油で揚げた食品,コーヒーなどの嗜好性飲料及び野菜は,「子供孫にかかわる」発がん性があるので飲食しないのだろう。また,紫外線を全く浴びないような対策を採っているのだろうし,がんを発症してシスプラチンの投与が治療に効果的と判断されても,シスプラチンの投与を拒絶するのだろう。

いずれにしても,佐野真理子委員の発言は,
まるでわかってないおばちゃん達の井戸端会議を覗いてるような…
(松永和紀氏のblog「花王に救われた消費者庁と消費者委員会」から引用)

という表現が的を得ている。
問題は,こうした発言・議論が,単なる「井戸端会議」ではなく,国政の消費者委員会という組織で行われているという点である。
また佐野真理子委員は,議事録を見ると,「私たち」という主語を使って発言している。文脈から考えて,この「私たち」とは,主婦連合又は消費者一般を指しているようだ。佐野真理子委員は,自らが消費者委員に選出され,消費者委員としての立場で消費者委員会に参加している自覚が無いようである。佐野真理子委員の経歴から,消費者(団体)目線からの発言を期待されて消費者委員に選出されたのだろうが,消費者(団体)を代表して消費者委員会に参加しているのではなく,あくまで消費者委員として参加していることをしっかり自覚していただきたい。

川戸惠子委員(ジャーナリスト)及び下谷内冨士子委員(社団法人 全国消費生活相談員協会顧問)は,佐野真理子委員の意見に「全く賛成」しているので,佐野真理子委員に対する私の批判は,この2名の委員にも向けられる。

中村雅人委員(弁護士,日本弁護士連合会消費者行政一元化推進本部本部長代行)は,この第2回消費者委員会において,自宅にあったとするエコナクッキングオイル1本を机上に置いて,次のように発言している。
例えばジアシルグリセロールがこの中には 80gと書いてあるんです。これは容器1本全部で 250g なんです。さっき含有のパーセンテージとかいろいろ言っておられますけれども、実は 250g 中 80g も入っているものだという、やはりこういう実感を持って議論をしなければいけないと思うんです。

ほかにも,
私はたまたま家族にもう使うなと言って取り上げてきた

動物実験とか追加試験をやるときのコーディネートも、消費者庁では消費者目線を持った人の関与もちゃんと入れて出てきた答えが国民目線で納得できるものになるようにあらかじめ仕掛けておいていただきたい。

などと,不安を煽った発言や,明らかに非科学的な発言を繰り返している。

消費者委員で唯一,自然科学分野の研究者である田島眞委員(実践女子大学生活科学部教授)については,長村洋一氏が既に指摘しているように,研究者としてのモラルが疑われる人物である。

消費者委員の選出は自民党政権時に行われており,現在の民主党・社民党・国民新党政権になってからの選出ではない。消費者委員会の力量の無さは,特定の政党に関係なく,国政全体の責任だ。

今回の件で,知らないことを言えない雰囲気があるといった趣旨の意見を見かけるが,それは違うだろう。知らないことが問題ではなく,知らないことを調べもせず,当て推量で自己主張する姿勢が問題なのだ。
しかも,今回は国政に直接影響を及ぼす権限を持つ消費者委員会での問題であり,その場での発言の重さを十分理解した上での発言でなければならない。後から,知識不足だったためのでの発言だったということは許されない状況ではないだろうか。
専門用語等で知らなければ,きちんと質問して事実確認をした上で発言すべきだし,もし事前に資料が配布されていたのであれば,私のようにインターネット等の情報ツールを活用して事前調査しておくべきだろう。消費安全委員として,その程度の事は求められて当然だ。
冒頭で書いたように,私は遺伝毒性についてきちんと理解していなかった。しかし,インターネット上の情報を基に学び,自分なりに理解した(つもり)。別にインターネットでなくとも,図書館なりその分野に造詣の深いと思われる知人を活用することでも良いだろう。


こうした消費者委員会の対応について,マスメディアの反応はどのようなものだったのか。
ここでは,2つのマスメディアから発信された内容を見ておきたい。
【社説】エコナ特保 予防原則で安全安心を」(中日新聞2009年10月17日)
記者の目:消費者庁よ、司令塔になれ 山田泰蔵」(毎日新聞2009年10月20日)(同じ記事が,まいまいクラブにもUPされている。)
いずれの記事も,
「消費者庁はこれまでの官僚の常識を打ち破る消費者委員会の姿勢に学ぶべきだ」(中日新聞)

「国民側の立場で動く消費者庁が司令塔として、旧来型の発想から抜けられない官庁に積極的に働きかけること」(毎日新聞)

として,「いわゆる縦割り行政が今回のエコナ問題でも見られた」,「食品安全委員会に対してもっと積極的に働きかけを行うべきだ」,といった趣旨のことを書いている。
この時点で,これらの記事の質の低さが露呈している。リスク評価は中立性が求められるもので,いわゆる縦割り行政の枠組みの中で動いているわけではない。リスク評価とリスク管理の違いが,全く理解できていない。(リスク評価の中立性については,中西準子氏が疑問を投げかけているが,それはここでは取り上げない。)
毎日新聞の記事では,
消費者行政の司令塔として食品安全委を十分指揮できなかった。

消費者庁は「食品安全委で安全性を調査中」という態度に終始し、現段階でリスクがどの程度かを示せなかった

消費者の関心を最優先すれば、ドイツのように現時点でのリスク推定を公表するよう求めることもできたはずだ

として,はっきりと消費者庁にリスク評価を求めている。
この山田泰蔵なる記者は,リスク評価とリスク管理の違い,食品安全委員会と消費者委員会の役割を全く理解しないで,当て推量で記事を書いているように見受けられる。

またいずれの記事でも,今回のエコナ問題に係る消費者委員会の動きについて,
消費者団体の代表や企業経営者、弁護士などでつくる消費者委員会は特保の取り消しか一時停止を求める見解を打ち出し、結果的に花王の許可取り下げにつながった。消費者庁はこれまでの官僚の常識を打ち破る消費者委員会の姿勢に学ぶべきだ(中日新聞)

福島瑞穂消費者担当相らは、前例のない特保の再審査手続きを進め、直接担当する分野では成果を上げた。(毎日新聞)

として,積極的に評価する姿勢を示している。しかし,実体は全く評価に値しないものであった。
なお,毎日新聞の山田泰蔵なる記者は,消費者庁と消費者委員会の役割の違いも理解していないように見受けられる。


このエコナ問題については,ネット上でも様々な情報がUPされている。
私が参考にした主なサイトを最後に参考リンクとして示すが,FoodScienceにUPされた関連記事は,かなり参考になった。複数の関連記事がUPされているので,参考リンクに示していない記事もある。


<参考リンク>
第2回(平成21年10月7日)消費者委員会議事録
食の安全情報blog「消費者庁と消費者委員会は花王に救われた。
松永和紀blog「花王に救われた消費者庁と消費者委員会
FoodScience「【特報】目指せ!リスコミ道「7日の消費者委員会、トクホ取り消しで意見一致」
FoodScience「場の議論●「欧州で懸念が広がっている」?----エコナ報道から考える情報伝達の難しさ
FoodScience「食品安全委員会が「高濃度にDAGを含む食用油等の関連情報」を更新、「速やかな評価を続ける」
まぁ、こんなもんでえぇんとちゃう?「「声の大きい人間」に騙されてはいけない!【エコナについての消費者委員会】
有機化学美術館・分館「エコナの件
薬作り職人のブログ「エコナ問題で、花王に足りないもの。
薬作り職人のブログ「消費者団体が、消費者を困らせている、という話。
posted by itoh at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 環境,食品,農業 | 更新情報をチェックする
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